2019.4.29 ”スポットライト” 世田谷花みず木女流オープン戦

7. イベント

選抜された4名の若手女流による棋戦(非公式戦)として位置づけられている「世田谷花みず木女流オープン戦」は2007年から開催されており、今回で第12回を迎える。
この数年は二子玉川の高島屋で行われ、無料で対局を観覧することができる。
間近で女流棋士の対局を感じることができる貴重なイベントとなっている。
出演する女流棋士が並ぶと華やか。

非公式戦とはいえ、勝ち上れば”優勝”の栄誉を得ることができる。
公式戦の重さは無いが、練習対局のように気軽に指せる訳ではない。衆人環境の下での対局でもあり、モバイル中継で棋譜が配信される。プロは観られてこそプロということだ。

今は世の中的に「仲が良い」というのが評価されやすい。
アイドルグループ、漫才師、サッカー選手など何でもよいがメンバー同士の仲の良さを売りにしているような節もある。
将棋界においても、誰と誰が研究会をやっているとか、尊敬しあってるとか、そういう情報が飛び交い、勝負の世界にいつつも互いを認め合うような姿勢が求められている感じを受ける。
ギスギスした世の中において、何かしらの癒しの泉を求めているのかもしれない。


トーナメントの初戦で、山根ことみ女流初段と和田あき女流初段が対決した。
同学年の二人は対局前後も二人で何やら仲良さげに話をしている。同年代で同性だから、出身地が離れているとはいえ、小さい頃から知った仲で長い付き合いだろう。とはいえ、客観的に考えれば「絶対に負けたくない相手」のはずだ。

対局内容の詳細はモバイル中継で閲覧することができるので割愛するが、山根の古典的な四間飛車に対して、和田が最先端の elmo 囲いという対照的な陣構えから、山根の良いところが無く和田の完勝譜となった。山根は詰将棋選手権でも男性棋士にも負けない順位につけるほど終盤力には定評があり、若手の実力派として女流名人リーグにも入るなど安定した力を発揮している。しかし、最先端の研究の前にあっけなく敗れてしまった。ソフト全盛の時代において、事前研究を棋力と見るかどうか判断は分かれるものの、最終的には勝敗で判断されるのが棋士の世界である。

この棋戦では対局で負けると用無しとなる。
その後の大盤解説会での聞き手を行うなどが無い。つまりは負けると帰宅だ。イベントではなく棋戦だという事実を突きつけられる。
初戦を終えた山根の姿を午後に見ることは無かった。

決勝はカロリーナ・ステチェンスカ女流1級を破った頼本奈菜女流初段と和田あき女流初段。

解説は中村修九段と森下卓九段という安定感のある二人で、私も大好きな棋士だ。

決勝戦では先手の頼本が中飛車を採用し、後手の和田が受けて立つという序盤から、豪快な捌きあいを経て、詰むやつまざるやの終盤となり、結果、163手の熱戦を和田が制した。

両対局者が大盤を前に感想を述べる。
頼本の顔は少しこわばったように見え、それが悔しさによるものであろうと推測した。感想の言葉が咄嗟にでなかったことも私の推測を後押しした。


最後に一身にスポットライトを浴びるのは優勝した和田のみである。観客は大きな拍手で和田を祝福する。多くの照明に照らされる和田の晴れた顔が誇らしげに見える。至極の時だろう。勝者のみが得られる栄誉。勝負の世界では勝者のみが評価される。それは正当な評価だ。勝つことが難しいほど、勝った時の光は強くなり、負けた側の影も濃くなる。そのコントラストが人を惹きつける。

和田の後ろにできる影は敗れ去った者たちだ。
勝者は後ろを見ない。影の容を借りた敗者は後ろから勝者を羨んで見入る。
私たちは影の存在を忘れ唯々勝者を褒め称える。

勝者は美しい。
数々の敗者の影を纏っているからこそ、ゾクッとするような魅力を醸し出すのだろう。
そう思いながら、私はカメラのシャッターを切った。今日の対局を象徴する光と影を切り取った一枚になった。

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