第5期叡王戦 本戦 準々決勝 見届け人を務めました

叡王戦 クラウドファンディングまで遡ります。
私は四・五・六段予選決勝を即日に申し込み、その後はのんびりと経過を見守っていた。途中、追加の対象対局や特典なども発表され、支援総額は少しずつ伸びている。将棋タイトル戦における最初のクラウドファンディングは話題を集め、目標額の200万円を超えノルマはなんなく達成し、安堵の雰囲気が漂っているように思えた。
プロジェクトの受付締め切り間近に迫るなか、ふと、サイトをチェックすると、本戦の見届け人の残りが目についた。誰が枠抜けをするのか分からず、対局日も不明という状況で申し込むには少々の勇気がいる。たいていは応援したい棋士がいる中での見届け人への立候補である。私はここで少考する。すでに一枠買っており、もう一つ買うと他の希望者の邪魔にならないだろうか?そんな逡巡を抱えながら受付締め切り近くまで待ち、2日前になり動きが無いのを見て購入した。本選は2020年1月下旬と提示されており調整がつく時期だ。

今期の叡王戦は日程序盤での対局が少なく、年末に向けて怒涛の如く進んでいった。
どうやら2020年東京オリンピックの影響もあり、名人戦と日程が重なる叡王戦も前倒しでタイトル戦を進めなければならないらしい。

ドワンゴから本戦の中での希望する対局リクエストの連絡があり、少し迷いつつも、四段予選決勝で出会った古森四段と、「ねこまど将棋チャンネル」で親交のあった青嶋五段が対戦するであろう左上の準々決勝に枠を願い出て、他の希望者がいなかったようですんなりと決まった。実際には古森四段は斎藤七段に負け、斎藤七段はその後も勝って駒を進めてきた。青嶋五段は佐藤七段、佐藤九段(会長)に勝ち、私が希望した対局まで勝ち上がってきてくれた。
斎藤慎太郎七段とは、ねこまどでの2度の詰将棋講座のビデオ収録などで会ったことがあり、その丁寧な対応に感嘆しっぱなしであった。(講座で時間内にできなかった内容を後日、御自身でビデオ収録して送ってくれたことがある。そんな棋士、聞いたことあります?)

Critical Conflict – どっちも応援している棋士が対局する時に、ファンはどのようにすれば良いのか?

私はこの命題に立ち向かうこととなる。

さて、未定だった対局の日程について。
12月に入り、対局者の都合(誰が勝つか)によっては、対局日が12月28日になるかもしれないと連絡がありました。想定より1か月早い。仕事の都合は大丈夫なのだが、先に他の予定を入れてしまっていた。行けないのだ。ドワンゴさんに代打を送る特別対応のお願いをする。結果、杞憂に終わったものの、もし、12月28日に決まっていたら、代打には北尾まどか女流二段を送ろうと考えていました。今回は「ねこまど将棋チャンネル」の名義にて見届け人を申し込んでおり、私じゃなくても良いだろうという理論である。お金を出したのは私ですが、誰も行かないよりは良い。北尾女流には、忘年会の席でこの件を打ち明け、ひっくり返ってました。女流棋士は普通に仕事で記録もするので特段に変わったことでは無いのですが、買取枠で女流棋士が出てくるというサプライズを見てみたかった気もします。

対局場が関西将棋会館と決まり、念のため前泊することにしました。
当日、新幹線が動かないというのは成人式の日にありがちなトラブルだ。
余裕をもって大阪に入れたので、前田アパートを見に行ったり、通天閣に行ったりと、大阪散歩を堪能できました。新世界で串カツ食べて大人しくホテルで就寝。

当日の関西将棋会館の入りが13:30ということもあり、午前中も付近を探索する。
まずは福島天満宮にて対局の無事を祈る。御朱印を頂こうと思ったら、もうやっていない、ということで大阪天満宮にも向かうことにした。今日、この日の証を御朱印として残しておきたかったからである。大阪天満宮は混んでいた。お参りして御朱印を頂き、粘り勝餅を食べ、星合池で願い玉を投げ、日本一長い商店街を歩いた。普通に観光を楽しむ。
そして関西将棋会館まで戻り、売店で置き駒を買い、そうこうしているうちにドワンゴの Tさんが迎えに来てくれて、控室に入る。

中継スタッフさん、大阪の職員さん、虹記者と挨拶をして、対局室にて位置関係の確認と振り駒の練習をする。この日の関西での対局は1局だけということで御上段の間にて対局されることとなり、まさかの特上の部屋での振り駒ということで嬉しくなる。

見届け人は、対局の前後、振り駒の時のみ出番があり、それ以外の時間は何もすることが無い。
基本的には控室でニコ生の放送を見る。持ち時間3時間の将棋なので約6時間。私は持ち込んだ PC で少し仕事もしていました。

対局の方は放送や棋譜を見て頂ければと思います。

[棋譜] 2020年1月13日15:00〜 斎藤 慎太郎 七段 対 青嶋 未来 五段
http://www.eiou.jp/kifu_player/20200113-1.html

振り駒は「と金が3枚」となり、放送機材の便宜上、青嶋五段が上座に位置する場所に座ることなりました。御上段の間で上座に座る青嶋五段を至近距離で見て、自信ありそうな眼付をしているなと感じました。斎藤七段はスマートに挨拶をして着席し、落ち着き払っています。
そういえば青嶋五段は手ぶらでやってきました。ポケットから目薬、スーツの内ポケットから扇子を出し、コートをハンガーに掛けます。それだけ。持参のおやつなどはありませんでした。

将棋は先手の意欲的な作戦で序盤からのっぴきならない状況となっており、形勢判断が難解すぎてアマチュアの私はついていけません。感想戦で質問しようかと思い必死に棋譜を追って考えていましたが、諦めて、ただただコンピューターが出す候補手を眺めていました。こんなんじゃ質問はできません。自分自身の疑問をぶつけられるぐらいの棋力が欲しいと思いました。

棋士室にお邪魔すると糸谷八段が虹記者や奨励会員と雑談をしたり、局面を検討したりしています。
虹記者の仕事はとても丁寧で、それは棋譜中継のコメントにも表れているので皆さんもお分かりかと思います。そういえば、糸谷八段が正月の藤田一樹さんねこまど将棋教室チャンネルでの仲間)とのことも話してました。

青嶋五段が注文した夕食の海鮮丼の実物がとても小さかったので、終わってから聞いてみたら、「想像より小さかった」と、本人も驚いていました。「でも食べ過ぎてもしょうがないので」、「今、お腹空いて来ましたよ」と局後に話してくれました。写真では伝わり切れない部分ですね。

私の夕飯は、ドワンゴ T さんと一緒に福島駅ガード下の「かく庄」に行きました。ここは”SMAP 五人旅”で、たぶん、唯一、SMAP五人がそろって飲食店に来た店であり、今では聖地のようになっています。以前に何度か来たことがあり味も美味しいと知っており、せっかくなのでとTさんを誘ってみました。「お好み焼き定食」という、お好み焼きに白米とみそ汁が付くという関東の人間には理解できないであろう組み合わせの定食を堪能します。私は好きですけどね。

夕食休憩を挟みつつ青嶋五段の長考が続いています。
ニコ生を見ながら静かに見守ります。

将棋は時間が限られているので何か指さないとならない。指すと局面が動き、形勢も変化する。
やがて1分将棋となり、リズムが速くなると局面も大きくうねりだす。そのうねりが叡王戦のマモノを呼び出す。
二転三転の末、青嶋五段が勝利を収めた。

投了を確認し、控室から対局室へと向かう。
他の対局が無く静まり返っている将棋会館。私が入室すると記録のK奨励会員は席を外しており、対局者と私の3人となる。私の姿を認めた斎藤七段がこちらに目配せをして、仕掛けの辺りから感想戦を行う。22時21分に終了した対局、感想戦はおよそ1時間ほど行われた。
青嶋五段の右手がやや青い。思えば、対局室は少し寒い。対局中は熱くなるだろうが、終われば血の気も引き、そして室温の低さに気が付く。撤収作業中に聞いてみたら、やっぱりちょっと寒かったとのこと。「でも、空調を調整する場所とか分からないんで」と低音ボイスで笑っていた。

感想戦が終わり、斎藤七段が静かに退室する。
青嶋五段は勝利者インタビューのために残る。
私は斎藤七段と言葉を交わすことはありませんでした。軽く挨拶だけして見送りました。たぶん、こういう時は勝者とだけ話をするのがマナーだろう。

勝利者インタビューが終わり、スタッフさんが機材の撤収をしている間に、改めて青嶋五段に挨拶をして雑談をしました。
序盤の作戦の話など聞きましたが企業秘密もあるでしょうから、ここには記しません。
ねこまど将棋教室の話や、勝って気分が良いだろうついでに「青嶋未来と行くカラオケツアー」の企画に承諾してもらったり、渡辺三冠とは研究会も含め指したことが無いというような話とか、それと持参した駒についても褒めていただきました。
疲れているだろう青嶋五段を引き留めてしまい、共に会館を出たのは12時をまわっていました。何もなければ、お腹が空いているとのことなので軽くお食事でもと誘おうと思いましたが、翌日には順位戦があるので控えます。いずれゆっくりと。

機材マニアのネタとして、関西の天カメは SONY で東京は Panasonic ということで、画質の違いの謎が分かりました。御上段の間の対局者撮影カメラは、SGI ケーブルで 5F から 3F まで有線でひっぱって、そこから Wirecast でドワンゴのサーバーに送っていました。

対局という特別で異質な空間から、この世界に戻ってきた青嶋五段は一人の24歳の青年らしくニコニコしている。
「負けたら明日の対局ヤバいなと思ってました」
大げさに言えば人生を賭して将棋を指しているであろう若者は、淡々と自らの状況を見つめている。私が半年前に会った時に比べて、何かちょっと力強さと自信を持ち合わせているように感じた。対局に勝った後ということを差し引いてもである。何かを掴みつつあるのかもしれない。策士へと変貌を遂げるのか?見守ろう。

次の渡辺三冠との対局は1月22日と間近だ。その次も(豊島竜王・名人 vs 佐々木五段の勝者)と手ごわい。兄弟子への挑戦に向けて倒さなければならない大きすぎる相手が続く。自らの道を切り拓くのは自分しかいない。


(勝利後の青嶋未来五段、お気に入りの赤いネクタイは勝率も良い)

夜の道を歩きながら、私はゆっくりと元の世界に馴染んでいった。
でもホテルまで近かったので部屋に戻っても、何かまだフワフワしている感じがした。
勝ち・負けという残酷な事実が横たわる世界において、事実を直視しなくてよい傍観者は地に足をつけていないようなものであり、それがフワフワの要因だろう。この気軽な無責任さを認めて甘受する代わりとして、見届け人は将棋の未来をも見届けなければならない。そう思いながら眠りについた。数時間後、夜が明け、モーニングを食べて、私は完全にこっち側の世界にいることを確認した。私の考えは変わっていなかった。そして大阪を後にした。家に帰ったら、まず先にネコが迎えに来た。いつもの日常、いつもの光景。変わらぬ思い。

叡王戦ありがとう。

(@totheworld)

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